2020-07-01から1ヶ月間の記事一覧

文学批評 ボルヘスを斜めから読むための補助線 ――『タデオ・イシドロ・クルスの生涯(一八二九~一八七四)』/『エンマ・ツンツ』/『もうひとつの死』 

・ミュージカル『エヴィータ』の人気に、実在のエヴィータ(エバ)のカリスマ性、神話性が寄与していることは否めないだろう。丸谷才一はエッセイ『私怨の晴らし方』で、『まねごと』におけるボルヘスの完璧な私怨の晴らし方を紹介してから、比較して鷗外『…

文学批評 『花柳小説名作選』を読む(3) ――舟橋聖一『堀江まきの破壊』

<舟橋聖一『堀江まきの破壊』> 《追ひ追ひに、ものが復興してくる中に、却て、昔より一歩乃至(ないし)数歩をすゝめたと思はれるものもあれば、どうしても、昔のものに及び難い、どこかで、今一つ、気が足りないといふものもある。これは、作る側で、工夫が…

文学批評 『花柳小説名作選』を読む(2)――徳田秋声『戦時風景』

<徳田秋声『戦時風景』> 《或る印刷工場迹の千何百坪かの赭土の原ツぱ――長いあひだ重い印刷機やモオタアの下敷になつていたお蔭で、一茎の草だも生えてゐない其のぼかぼかした赭い粉土(こなつち)は、昼間は南の風に煽られ、濠々と一丈ばかりも舞ひあがつて…

文学批評 『花柳小説名作選』を読む(1) ――永井荷風『あぢさゐ』

『花柳小説名作選』(丸谷才一選。以下『名作選』と略す)から永井荷風『あぢさゐ』、徳田秋声『戦時風景』、舟橋聖一『堀江まきの破壊』の三作品を読む。 荷風は別格として、徳田秋声、舟橋聖一の二人はかつて大家でありながら今ではほとんど忘れられている…