2023-01-01から1年間の記事一覧

文学批評 江國香織『去年の雪』は何処  ――スケッチ・サイクル・群像/エピファニー・不穏/断片・モザイク/物語・時間

江國香織『去年の雪』の123の話、断片(断章、スケッチ)は短いもので半ページ、長くとも数ページからなり、ひとひらひとひらはさらさらと舞い散る淡雪か細雪のようであり、湿って結び合うぼたん雪のようでもあり、あるいは知らぬ間に溶けて消えるかと思…

文学批評 折口信夫の『源氏物語 若菜』――「反省の書」 (引用ノート)

小林秀雄『本居宣長』は、小林が折口信夫の大森の家を初めて訪問し、『古事記』について尋ねての帰途、駅まで送ってきた折口が、《お別れしようとしたとき、不意に、「小林さん、本居さんはね、やはり源氏ですよ、では、さようなら」と言われた》というエピ…

文学批評 漱石『こころ』のアポリア (ノート)

夏目漱石『こころ』は、1960年頃からほとんどの高校教科書の教材として国民的に読まれることになった。多くは高校2年の国語教科書で、「全体構成+あらすじ+(下)35~48節+その後のあらすじ」の構成からなる。「学習の手引き」によって、教師か…

文学批評/映画批評  マン/マーラー/ヴィスコンティの『ヴェニスに死す』 

「ルキノ・ヴィスコンティとの対話」(『ヴィスコンティ秀作集1 ベニスに死す』に所収。この本ではトーマス・マンの原作小説”Der Tod in Venedig”を『ヴェニスに死す』、ヴィスコンティの監督映画”Morte a Venezia”を『ベニスに死す』と訳名を表記分けして…

文学批評 折口信夫『恋の座』について ――越人「うらやまし おもひ切時 猫の恋」と芭蕉「きぬ/\゛や あまりかぼそく あてやかに」

折口信夫は歌(和歌、短歌)について、『古代研究』、『国文学の発生』、『口訳万葉集』、『日本文学の発生 序説』などの「学術的」論考や同時代批評を残しており、約四十巻に及ぶ『折口信夫全集』は歌・文学(釈迢空名での歌集『海山のあひだ』、『倭をぐな…

文学批評 カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』とプラトン/カフカ

ケント大学で英文学と哲学を専攻したカズオ・イシグロは「カズオ・イシグロ・インタビュー ~The Art of Fiction 第196回」(『THE PARIS REVIEW』2008年春号収録)で、 「『わたしを離さないで』にも中止した幾つかのバージョンがあると聞いています」と…

文学批評/演劇批評 泉鏡花『日本橋』の「紅と浅黄の段染麻の葉鹿の子の長襦袢」

「(同じく妻。)だわ。……雛の節句のあくる晩、春で、朧で、御縁日、同じ栄螺と蛤を放して、巡査の帳面に、名を並べて、女房と名告(なの)つて、一所に詣る西河岸の、お地蔵様が縁結び。……これで出来なきや、世界は暗夜(やみ)だわ。」 という稲葉家お考(こう)…

文学批評/オペラ批評  シラー/ヴェルディの『ドン・カルロス』について

<フリードリヒ・シラー> フリードリヒ・シラーのことは、世界史の教科書で、ゲーテと共に「シュトルム・ウント・ドランク Sturm und Drang」(18世紀後半、啓蒙主義、理性に反発し、感情の優越を唱えてロマン主義へつながる)時代の人物と教えられたくら…

文学批評 ナボコフ『フィアルタの春』を読む――細部と記憶の螺旋

ナボコフ自身もっともお気に入りの短篇小説だという『フィアルタの春』は、ロシア語で書かれた(1936)(のちに自ら英訳(1956))最後の小説だが、比較的初期の作品ながら、すでにナボコフ作品の特徴、秘密の種をほぼすべて持ち合わせている。 ナボ…

文学批評 丸谷才一『後鳥羽院』(ノート) ――「しかし」で転回/多層化する後鳥羽院和歌

丸谷才一『日本詩人選10 後鳥羽院』(以下、『後鳥羽院』と略)は「歌人としての後鳥羽院」「へにける年」「宮廷文化と政治と文学」からなる。第二版で、「しぐれの雲」「隠岐を夢みる」「王朝和歌とモダニズム」の三篇を追加した。 開巻第一の「歌人とし…

文学批評 吉岡実、禁欲と侵犯の窃視者

詩人吉岡実に、舞踏家土方巽についての『土方巽頌――<日記>と<引用>による』という書物がある。その「補足的で断章的な後書」によれば、 《「土方巽とは何者?」誰もがそう思っているにちがいない。この人物と二十年の交流があるものの、私には「一個の天…