2024-01-01から1年間の記事一覧

文学批評 村上春樹『海辺のカフカ』のカラマーゾフ的ポリフォニー

村上春樹はスコット・フィッツジェラルド『グレート・ギャツビー』の「訳者あとがき」に書いている。 《もし『これまでの人生で巡り会ったもっとも重要な本を三冊あげろ』と言われたら、考えるまでもなく答えは決まっている。この『グレート・ギャツビー』と…

映画批評) 溝口健二『残菊物語』の「視線」と「声」のからみあい(引用の織物)  ――加藤幹郎「視線の集中砲火」と蓮實重彦「言葉の力」

溝口健二監督『残菊物語』は驚くほどのスピードで、原作小説掲載、新派上演を経て、映画化された。 一九三七年(昭和一二年)九月、『サンデー毎日』秋季特別号に村松楓風(しょうふう)の短篇小説『残菊物語』が掲載され、同年一〇月には巖谷三一(愼一)脚色…

文学批評 デュラス『愛人』とバルト『明るい部屋』――「存在しない写真」と「時間」

<デュラス『愛人』> よく知られているように、マルグリット・デュラス『愛人』(『ラマン』)は次の文章から始まる。 《ある日、もう若くはないわたしなのに、とあるコンコースで、ひとりの男が寄ってきた。自己紹介をしてから、男はこう言った。「以前か…

オペラ批評 ワーグナー『トリスタンとイゾルデ』――「沈黙」と「愛死」に関する引用ノート

誰しもワーグナー『トリスタンとイゾルデ』を論じるとなれば、ニーチェの『この人を見よ』の《あれこれ考え合わせてみると、私はヴァーグナーの音楽がなかったら、私の青年期を持ちこたえることが出来なかったと思う。(中略)レオナルド・ダ・ヴィンチの示…

文学批評 丸谷才一『輝く日の宮』の『源氏物語』成立史(引用ノート)

丸谷才一『輝く日の宮』で、熱海から東海道線に乗った国文学の専任講師杉安佐子は、バッグからノートを出して読むこととした。自分の考えている『源氏物語』成立史をおさらいしてみよう、光源氏と藤壺との最初の関係を書いた幻の第二巻「輝く日の宮」の喪失…